はじめに
前回、民事通常訴訟の第一審における手続の流れと概要についてご説明しました。民事通常訴訟への対応も専門性が要求され得るものではありますが、さらに高度な専門性が必要となると考えられているのが労働審判という制度です。
労働に関する紛争については、民事訴訟を提起してその解決を求めることもできますが、ケースによっては労働審判の申立てをしてその解決を求めることも可能です。
労働審判とは、裁判手続の種類として、「訴訟」ではなく、「非訟」に分類されるものです。非訟については、一般に、裁判所が後見的な立場から、合理的な裁量に基づき、権利義務の具体的内容の形成を目的とするものであるなどといわれています。このことは、労働審判法(以下、法名省略)において、「紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする」(1条)とされていることにも表れているといえます。
今回は、労働者側でも、使用者側(事業主側)でも、労働紛争の解決の際に利用される可能性がある労働審判について取り上げてご説明したいと思います。
労働審判手続の対象と労働審判委員会による手続
労働に関する紛争であれば何でも労働審判手続を利用することができるわけではありません。「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争たる」「個別労働関係民事紛争」(1条)が、労働審判手続の対象となります(5条1項)。例えば、解雇の効力が争われているもの(いわゆる不当解雇事案)や、未払賃金の支払を求めるものなどが典型的です。
また、労働審判事件の管轄は地方裁判所ですが(2条1項)、裁判官のみが労働審判手続を行うのではなく、労働審判官1名と労働審判員2名の計3名から成る労働審判委員会が構成され、同委員会により手続が行われます(7条)。
労働審判官は「裁判官の中から指定」され(8条)、労働審判員は「労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命」されます(9条2項)。この労働審判員については、実務上、労働者側・使用者側(事業主側)のそれぞれから選ばれますが、「中立かつ公正な立場において」職務を行うものとされています(9条1項)。
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